タイトル未定、あるいは去年の記事とはなんの関連もあるはずもないとあるお話

この記事は @Syarlathotep 様主催の自分のことを好きなだけ話す Advent Calendar 2019 9 日目の記事です。


E・piph・a・ny /ɪpɪ́f(ə)ni/
名(複-nies)[キリスト教]
1. [the ~]顕現日(1 月 6 日); 神の顕現, 現れ. 2. C[e-] 直覚的な悟り. 3. C[e-] エピファニー(物事や人物の本質が露呈する瞬間を象徴的に表した文学作品).

− ウィズダム英和辞典 第 2 版 より引用


なにかのきっかけで、気づいてしまうことがある。悟ってしまうことがある。

おとなは、だれも、はじめは子どもだったことを
(しかし、そのことを忘れずにいるおとなは、いくらもいないことを)
お砂糖とスパイスとすてきなものぜんぶでできた女の子は、大航海時代以前にはたいへん珍重されていたに違いないことを
寂しそうに笑った顔が、ジェームス=ディーンによく似ていたことを
アシカとオットセイの違いは 50 円だということを
自分の人生は終わりを迎えたことを
義なるものの上にも、不義なるものの上にも、静かに夜が来ることを
社会的ダーウィニズムに抵抗するには教養の力が必要だということを
言葉は思うよりも暴れてしまうことを
言葉は思うよりも溢れてしまうことを
この世には自分には思いもよらぬつらく悲しいことがいくつもあるってことを
自分にはなにひとつそれらが見えていなかったことを。

思えば、かつての私は虚空でした。
世界を「冷静に」分析した気になって
最適化の名のもとに人間の感情を問題の解決における非効率的な要素とみなし
感情移入や共感を精神汚染といいかえて
現実をより端的に、露悪的かつグロテスクな形で提示することを誠実とし
人の気持ちなど完全にわかるはずもないのだからそれを考慮しようとすること自体を不誠実とし
そのくせ同じ天秤が自分に返ってきたら不機嫌になり
いや、その百分の一が返ってきただけでも不機嫌になり
自尊心の低さをプライドの高さで鎧して
たとえその言の葉が誰かの心と腎とを引き裂こうとも、魂を深く傷つけようとも

「私は事実を述べたまで。どう受け取るかはその人の自由」
「私が言ってもいないことを勝手に読み取って傷ついたり怒ったりするのは感情のバグだし時間の無駄だからやめたほうがいいですよ」
「それで傷つくのはその人が弱いから。たとえ今私がその弱さに気を遣ったところで、そう遠くないうちにこの人の心は他の誰かの手により殺されることでしょう」

と本気で思っていた「わたし」、あるいは虚空のあなた。
そんなあなたの視点からは、今の私は大変滑稽に映っていることでしょう。

泥濘に塗れ、霊において呻き、
病める魂に少しでも近づかんと、
同じ気持ちを分けあうことができないとしても
少しでも、あと一歩だけでもわかろうとして
その人が何を見てきたのか、何を耳にしたのか、
何に触れたのか、その時何を感じたのか、
自ら闇の中に飛び込んでは、心を散り散りにかき乱しています
人間の心理に関してただの素人以上になにもわからない私が、
人の心に触れるには、こうするより他に手が思いつかないのです。
こうでもしないと、またあなたが顔をのぞかせてしまうのです。

あなたは愛を持たなかった
あなたは真理を持たなかった
あなたは善意の秤を持たなかった
他人の感情のくすしさを理解できなかったあなたは
自分の感情の必要性から目を背け
充たされざる思いを抱えながら
目を閉じ、耳を塞ぎ、この世界にひとりでいることを自立と呼んだ
世界はひとりで生きていくには広すぎるのに。

あなたは自分の目の前にいる人に目を向けたか
あなたは自分の目の前にいる人が夜毎に泣いていたことに目を留めたか
あなたは自分の目の前にいる人が、ここに来るまでに何を失ってきたかに気づいたか
あなたは自分の目の前にいる人が、虚空に何かを与えてくれたのか気づいたか
あなたは生まれてくる前に死んでいく者に対し、ただ涙を流し祈るほかにできることが何もないことに気づいたか
あなたは自分が虚空であったことを悟ったか
あなたは自分が死に至る病に罹っていたことを悟ったか
あなたは自分の罪に気づいたか。

気づいてしまったのなら、戻れない。
Ὕπαγε ὀπίσω μου, Σατανᾶ.

はじめに言葉があった。
言葉は神とともにあった。
言葉は神であった。
神さま、神さま
私はどこまでも愚かですから、
貴方の深い慈悲と智慧とを理解できません
世界はこんなにも広いのに
御手はあまりにも遠く、
私の腕はあなたに届きそうもありません

(未完)